社員が勝手にChatGPTへ社内Excelを貼っている ― シャドーAIの実害と止め方
見積のExcel、取引先名と数量が並んだ受注一覧、請求書のPDF。これらを社員が自分のアカウントで生成AIに貼り付けている ― 会社が把握していないところで、すでに起きている会社は少なくありません。これをシャドーAIと呼びます。
結論から言うと、シャドーAIの実害は「情報が漏れるかもしれない」ことではなく、何がどこへ出たのかを会社が説明できないことです。 そして、禁止通達を出しても利用は止まりません。止まるのは申告のほうで、見えない範囲が広がるだけです。
だから止め方は、禁止ではなく 会社が経路を追える正規のルートを1本用意して、そちらに寄せる ことになります。この記事では、情シス・管理部門が今週から着手できる棚卸しの手順と、退職者のデータまで含めた運用の作り方を整理します。
シャドーAIの「実害」は、具体的にどこにありますか?
社外に出た可能性のあるものを、会社が特定できないことです。
まず、何が出ているのかを具体物で見ておく必要があります。貼られているのは「文面」ではありません。ファイルそのもの ― 単価の入った商品マスタ、取引先名と数量の並んだ受注一覧のExcel、請求書PDF、名刺を撮った画像、社員名簿。要約させるにも集計させるにも、中身を丸ごと渡すのがいちばん手っ取り早いからです。
そのうえで、実害は次の3つの形で出ます。
事故のときに報告できない
取引先から「弊社のデータは外部のAIに入っていないか」と聞かれても、会社に記録が無ければ「入っていません」と答える根拠が出せない。答えられないこと自体が取引の問題になる。
契約違反かどうかを判定できない
顧客から預かったデータの外部利用が契約で縛られていても、貼ったのが個人アカウントなら会社は事実を確認できない。違反しているかどうかすら分からない状態が続く。
うまくいった使い方も会社に残らない
成果が出ている担当者のやり方は、その人の個人アカウントの中にある。異動や退職と一緒に消えるので、会社としては何も蓄積しない。
3つに共通しているのは、漏れたかどうか以前に「何が出たか」を会社が言えないという点です。シャドーAIは情報漏洩の問題である前に、可視性の問題として扱うほうが対策が立ちます。
禁止通達を出しても止まらないのはなぜですか?
社員がそれを使って、実際に業務を回しているからです。
通達で消えるのは利用ではなく、会社から見える部分です。社用PCからアクセスを塞げば私物のスマホに移り、聞かれても答えなくなります。取り締まりが厳しいほど、情シスの手元にある情報は実態から遠ざかります。
禁止通達だけを出した場合
- 利用は私物端末に移り、会社からは見えなくなる
- 「じゃあこの資料の要約は誰がやるのか」に答えていないので、現場は元の作業に戻れない
- 相談してきた社員が損をするため、以後は誰も申告しない
正規ルートを用意した場合
- 社内ファイルを扱う仕事は、経路を追える側に集まる
- 使ってよい範囲が具体的に示されるので、現場が自分で判断せずに済む
- 誰が何に使っているかが、禁止しなくても分かる
AItoAir が導入の相談で最初に聞くのは「これから何に使いたいか」ではなく「いま誰が、何に使っているか」です。 ここを聞かずに設計した仕組みは、現場がすでに持っている手段より不便になり、使われないまま残ります。相談の場で「実はもう使っています」と出てくる用途は、たいてい議事録の要約や、受け取ったExcelの集計といった地味な作業です。禁止で消せる性質のものではありません。
誰が何をどこへ貼っているのか、どうやって把握しますか?
出口のログと匿名の聞き取りを組み合わせると、外部のツールを買わなくても今週のうちに輪郭が掴めます。順番が大事です。
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Day 1
出口のログをドメイン単位で見る
社内ネットワークから外部の生成AIサービスへ、どれだけアクセスがあるかをプロキシやファイアウォールのログで数える。ここでは誰がやったかまで特定しにいかない。まず量を知るための工程。
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Day 2
個人を特定しない形で用途を聞く
「利用者を探す調査ではない」と最初に明記したうえで、用途と扱ったファイルの種類を選択式で聞く。氏名・部署・端末を紐づける項目は入れない。ここで正直な回答が集まるかどうかが、この棚卸しの成否を決める。
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Day 3
出ているものを具体物に落とす
回答を「Excel・PDF・画像・メール文面」のように、ファイルの種類で並べ直す。ここで初めて、何が社外に出ているのかが「データ」ではなく具体的な物として見える。
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Week 1 の終わり
業務を3つに仕分ける
そのまま続けてよいもの(社外に出しても支障の無い情報だけを扱う作業)、正規ルートに移すもの、止めるもの。全部を止める必要はなく、移すべきものを絞り込むのがこの工程の目的。
この棚卸しでいちばん効くのは、担当者を処分しないと先に宣言することです。 責任追及の場になった瞬間に回答は消え、ログに残る量だけが手元に残ります。それでは「何が出たか」は最後まで分かりません。
禁止の代わりに用意する「正規ルート」の条件は何ですか?
条件は3つ ― 保存先・アカウント・記録です。この3つが揃って初めて、会社はデータの行き先を追えます。
| 見る点 | 個人アカウントでの利用 | 会社が経路を追える正規ルート |
|---|---|---|
| 入れたファイルの保存先 | 会社は把握できない | 会社の管理下にある領域 |
| アカウントの持ち主 | 社員個人 | 組織 |
| 何を入れたかの記録 | 本人の画面の中だけ | 組織側に残る |
| 退職したとき | 依頼するしかなく、確認もできない | 引き継ぎ・削除を実行できる |
| 使い方の蓄積 | 担当者に属人化する | 組織に残る |
当社のExcel運用AIエージェント「イチヨミシート」で、機能より先に保存先とアカウントの設計を決めたのは、この表の右側を成立させるためです。 取り込んだExcelやPDFは自社領域のAWSに保存し、アカウントは組織が持ちます。担当者が退職しても、そのデータとやり取りは組織側で引き継ぎ・削除ができます。集計やレポート整形といった機能は、この土台が無いと「便利だが会社が説明できない仕組み」になってしまいます。
ここから、一般利用と業務利用の線引きが決まります。「生成AIを使うな」ではなく「社内のファイルを扱う仕事は正規ルート、一般的な調べ物や文章の下書きはこれまでどおり」 という引き方です。禁止する対象で線を引くと、境界の判断が社員一人ひとりに委ねられます。保存先で線を引けば、迷ったときは正規ルートに入れるだけで済みます。
なお、そもそもどのデータなら外に出してよいのかという線引き自体は、機微性・契約・法規の3軸で決める別の工程です。そちらは クラウドに出せないデータをどう扱うか に整理してあります。この記事で扱っているのは、その線引きを決めた後に、会社が実際に経路を追えるようにする側です。
退職者が個人アカウントで扱ったデータは、どう引き継ぎ・削除しますか?
退職の当日にできることは、ほとんどありません。 個人アカウントに入ったものは、会社側に削除を実行する手段が無いためです。だからこの工程は、退職ではなく入社・異動の側から組み立てます。
人事のイベントに紐づけるのが要点です。情報システム側の単発の点検にすると、次に見るのがいつになるか誰も決められません。 入社・異動・退職はどのみち手続きが回るので、そこに1行足すほうが続きます。
何から始めればよいですか?
- シャドーAIの実害は「漏れるかもしれない」ことではなく、何がどこへ出たかを会社が説明できないこと。可視性の問題として扱う
- 出ているのは文面ではなくファイルそのもの(受注一覧のExcel、請求書PDF、名刺画像)。ここを丸めて書くと対策も丸くなる
- 禁止通達で減るのは利用ではなく申告。代わりに、社内ファイルを扱ってよい正規ルートを1本用意する
- 正規ルートの条件は保存先・アカウント・記録の3つ。線引きは「禁止する対象」ではなく「保存先」で引く
- 退職者のデータは入社・異動の時点で決まる。人事の手続きに1行足して回す
最初の一手は、Day 1 の「出口のログをドメイン単位で数える」だけで構いません。件数が出た時点で、これが個人の問題ではなく会社の仕組みの問題だと分かります。
自社の状況に当てはめてどこから手を付けるかは、30分の無料相談でも整理できます。すでに現場で使われている用途を一緒に洗い出したうえで、正規ルートに何を求めるかまでお伝えしています。
よくある質問
社員の生成AI利用を禁止する通達を出すだけでは足りませんか?
通達だけで減るのは、利用そのものではなく会社から見える部分です。社用PCで塞いでも私物のスマホに移り、以後は申告もされなくなります。禁止と合わせて、社内のファイルを扱ってよい正規のルートを用意し、そちらに寄せるほうが実態を把握できます。
費用をかけずに、まず何から始められますか?
社内から外部の生成AIサービスへどれだけアクセスがあるかを、プロキシやファイアウォールのログでドメイン単位に見るところから始められます。あわせて、個人を特定しない匿名の形で用途とファイルの種類を聞くと、何が外に出ているかが具体物になります。担当者を処分しないと先に伝えることが、正確な把握には欠かせません。
法人向けの契約に切り替えれば、シャドーAIの問題は解決しますか?
一部は改善しますが、社員が個人のアカウントで使っている限り、会社は何がどこへ出たのかを追えません。契約の種類より先に、業務で扱うファイルの保存先とアカウントの持ち主を組織側に寄せることが要点になります。そのうえで契約条件を確認する、という順番をおすすめしています。
そもそも社内のデータを外部のAIサービスに渡してよいかは、どう判断しますか?
機微性・契約・法規の3つの軸で分けて考えます。その線引きの手順は クラウドに出せないデータをどう扱うか に整理しています。この記事で扱うのは線引きを決めた後の話 ― 会社がデータの行き先を実際に追えるようにする側なので、あわせて読むと順番が分かります。
退職する社員が個人アカウントで扱った社内データは、削除させられますか?
会社側に実行する手段がないので、本人に依頼する形になり、実際に消えたかどうかの記録も残りません。だからこそ、退職時ではなく入社・異動の時点で、業務用のAIを会社が払い出したアカウントに寄せておくことが現実的な対策になります。組織のアカウントであれば、退職手続きの中で引き継ぎと削除を実行できます。
正規ルートを用意すれば、社員は本当にそちらを使いますか?
今のやり方より手間が増えなければ使われます。逆に、申請書や都度の承認を挟むと個人アカウントに戻ります。いま使っているExcelやPDFをそのまま投入できること、日本語の操作だけで完結することを最低条件にすると定着しやすくなります。